バス
実家を拠点に仕事をするとき、
足となるのは、地元のバス。
今日も早朝からそのバスを利用したのだが、乗った瞬間に、
「ミシッ」という音で思い出した。
母とたわいもない話をしながら街へ出た時のこと。
小5の夏、初めて一人でバスに乗った時、運賃表の見方が
わからず終点であたふたしていた自分に、運転手さんが
優しく教えてくれた時のこと。
思えば僕にとってバスとは、社会の入り口だったのかもしれない。
リンゴ畑の真ん中で育った僕。
バスに乗れば、たくさんの車とお洒落な服を着た人たちが
行き交う場所に行ける。
ちょっとだけ背伸びした自分になれる。
ミシッ、という音の正体。
それは、木の床のこと。
小さな時に見たその「木」は少し黒々として張りが感じられた。
それが今では白く霞み、弱々しく見えてしまう。
あれからだいぶ時が経ち、大人になった自分。
「木のバス」は今日も人々を乗せて、走り続ける。