選択
今日は早朝からの移動と息つく暇も許されないくらいの勢いで、
熱を帯びた時間が過ぎていった。
帰りの電車まで少し時間があった。
昼食を摂ることを忘れさせてしまうくらいの疲労感。
せっかく遠いここまで来たのだから、その地域ならではの食に舌鼓を、
とも考えたがなぜか足はそこへ向かなかった。
僕は、駅の少し先にある風景に目を凝らした。
もう少し普段とは異なる景色と風の中を歩くことを選択したのだ。
歩き始めてどのくらいの時間が経ったのか。
僕は気づくと観光用に整備された川のほとりに立っていた。
すると、上流から二羽のカモがゆらゆらと現れた。餌を探しているのだろう。
二羽は何度も水中に頭を沈ませていた。
二羽の先には、少しだけ段差があり、水がしぶきを上げていた。
人の大きさで見れば、大した段差ではない。でも、カモたちから見たら
それはそれは大きな段差だろう。
次の瞬間だった。
一羽のカモが勢いよく、水面をその羽で打ちつけるようにバタバタと飛び立ち、
その段差を飛び超えた。
もう一羽は?
片方の飛び立つ姿を悠々と見渡しながら、流れに身を任せてその段差から
滑り落ち、また水面に身体を表したのだ。
同じ鳥で同じ段差でも、二羽の選択は違った。
一羽は力のままに。
もう一羽は流れのままに。
どちらが正解などというのではない。何を選択したかなのだ。
僕は「食」ではなく、「歩く」を選択した。
そして二羽の異なる選択を同時に見つけた。
うん、そろそろ空腹が限界だ。
さて、車内販売のお弁当にするか、
それともさらに我慢して到着駅のエキナカで食べるか?
むむむ?
ここに来てとてつもなく選択に苦しむ自分がいるぞ。
ど、どっちなんだー!?